- 「配慮」って、本当に受け入れられるものなの?
- 「ただのわがまま」だって思われないか不安…
- 職場の理解が得られず、孤立してしまうのが怖い
障害のある方が職場で必要な配慮を求めることは、決して「わがまま」ではありません。
しかし、適切に伝えなければ誤解を招く可能性があります。場合によっては職場で孤立したり、職場定着が難しくなったりするケースもあるでしょう。
私自身、うまくいかなくて社内ニート化しかけたことがあるよ…。
この記事では、合理的配慮をわがままと勘違いされないための工夫をご紹介します。
結論からお伝えすると、以下の3つ。
- 希望は具体的かつ明確に伝える
- 職場側の立場も理解する
- 必要であれば第三者の協力も得る
大前提として、職場側の理解は追い付いていないと考えましょう。「詳しく伝えなくても察してくれる」と考えていたら、うまくいかない可能性が高いです。
- 職場との調整に失敗したら嫌だ
- 働きやすい環境を作りたい
そんな方は本記事を、ぜひ最後までお読みください。
合理的配慮とは?障害者雇用と職場の理解
合理的配慮とは、障害のある人が働くうえで不便を感じないよう、必要な場面で適切な支援や環境整備を行うこと。
障害によって活動が制限される社会的なバリアを、過重な負担にならない範囲で取り除くことを「合理的配慮の提供」としています。
このような、障害のある人にとっての社会的なバリアについて、個々の場面で障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な対応をすることとされています。これを「合理的配慮の提供」といいます。
引用:政府広報オンライン
合理的配慮は「特別扱い」ではなく、能力を発揮できる環境を整えるための取り組み。自力で何とかするからと遠慮する必要はありませんが、過度に「配慮して!」と押し付けるのもNGです。
あくまで合理的に、相談を重ねたうえで調整!
2024年4月から法律で義務化
2024年4月、改正した障害者差別解消法の施行により、合理的配慮の提供が義務化されました。従来の努力義務から一歩踏み込み、一般の事業者も配慮の提供が義務となります。
行政機関等 | 事業者 | |
---|---|---|
不当な差別的取扱い | 禁止 | 禁止 |
合理的配慮の提供 | 義務 | 努力義務→義務 |
一般消費者としてだけでなく、障害者雇用で働く場合も対象。面接時や採用後など、可能な範囲で調整することを求められます。
職場や人への浸透が追い付いていない
合理的配慮の概念は2016年から施行されていますが、いまだに理解が追い付いていないのが現状。
特に中小企業や地方企業では、人事担当者が専門知識をもっていないケースがあり、適切な対応を受けられない場合もあるでしょう。
働く人々の意識改革の面でも、なかなか進んでいない状況です。なかには合理的配慮を「特別扱い」「ただのわがまま」と誤解している方もいます。
配慮の伝え方で損をする場合もある
私たち障害者側も、合理的配慮の伝え方で損をする場合があります。
- 曖昧な表現や説明不足
- 過度な遠慮、タイミング遅れ
- 強すぎる主張や態度
ポイントとなるのは、相談を行ったうえでの双方の納得と調整。
説明不足により希望する配慮が明確でなかったり、遠慮して伝えなかったりすると、配慮の意図が相手側に伝わりにくいです。
一方で「配慮されるべき」と態度を強めてしまうと、適切な相談ができません。職場側の理解を求めるだけでなく、私たちも正しく伝えるための工夫が必要です。
合理的配慮をわがままと勘違いされるケース
合理的配慮を「わがまま」と勘違いされる背景には、職場側と私たち障害者、お互いの問題が考えられます。
- 職場側の理解が足りない
- 職場に配慮を求めすぎている
職場側の理解が足りない
配慮ではなく「わがまま」と勘違いされる原因として、職場側の理解不足が考えられます。
- 合理的配慮や法的義務についての認識不足
- 配慮を「特別扱い」や「甘え」と誤解している
- 雇用率の数字だけにフォーカスし、実質的な配慮がない
職場として合理的配慮の意識がない場合、いくら私たちが希望を投げかけても叶いません。
第三者の支援者を経由したり、人事・労務部へ直接相談したりと、理解のある人に頼ることも検討しましょう。
職場に配慮を求めすぎている
私たちが職場側に対し、過度な要求をしてしまうケースも考えられます。
- 障害を理由に業務を全て突っぱねる
- 職場側にかかる負担が大きすぎる
- 他の従業員とのバランスを考慮しない
職場からの理解を得られにくく、むしろ反感を買う可能性もあります。
重要なのは双方の相談と、合理性のある解決策。お互いの状況や考えを共有して、適切な配慮の形を見つけることが大切です。
わがままと誤解されやすい配慮の事例
合理的配慮は、伝え方ひとつで「ただのわがまま」と誤解されてしまう場合があります。
よくある事例として、以下を確認してください。
- 職場側に理由が伝わらない
- 代替案や落としどころがない
誤解されて低評価を受けるのはもったいない!
職場側に理由が伝わらない
ただ希望する配慮を伝えるだけでなく、理由や背景を一緒に伝えると誤解されにくいです。
例)通勤時間の調整
- 「出勤時間を1時間遅らせてほしいです。」
- 「歩行が困難で通勤に時間がかかるため、出勤時間を1時間遅らせてほしいです。」
単に出勤時間を遅らせるだけだと、障害特性との関係が伝わりません。
- 通勤ラッシュの時間は精神面の負担が大きすぎて難しい
- 車椅子でエレベーターを経由する必要があり時間がかかる
など、理由を添えて伝えることをオススメします。
代替案や落としどころがない
「できない」と切り捨てるのではなく、代替案や妥協点などを話し合いましょう。
例)業務内容の調整
- 「マニュアルがない業務は理解できないため受けられません。」
- 「マニュアルがないと業務理解に時間がかかるため、手順書を一緒に作ったうえでお受けしたいです。」
業務を受けられないと言い切ってしまうと、職場側は仕事を依頼しにくくなってしまいます。
- 業務全体ではなく一部を切り出してもらう
- 業務を把握しやすいように整えてから受ける
といった相談を行い、双方が納得いく形を考えながら進めるようにしましょう。
合理的配慮の勘違いを防ぐ3つの工夫
合理的配慮をわがままと勘違いされないためには、以下の3つの工夫が効果的です。
- 具体的な希望を明確に伝える
- 職場側の立場も理解し対話を心掛ける
- 必要であれば第三者の協力も得る
配慮にまつわる勘違いは、私たちにとっても職場にとっても損となります。できる範囲で工夫し、職場とのすれ違いを防ぐようにしましょう。
一人だと難しければ支援者に入ってもらうのもあり!
具体的な希望を明確に伝える
合理的配慮をわがままと誤解されないためには、具体的な希望を伝えることが重要です。
- 配慮の内容を具体的に説明する
- 必要な理由や特性、背景を伝える
- 自己対処できる範囲も考える
例)静かな環境
席の配置を、静かな場所にしていただけますでしょうか?私は聴覚過敏があり、大きな音や騒がしい環境だとミスが増える傾向にあります。また集中力が必要な業務時のみ、ノイズキャンセリングイヤホンなどで対応できればと思います。ご配慮いただけますと幸いです。
- 内容:席の配置を静かな場所にしてほしい
- 背景:聴覚過敏があり、騒がしい環境だとミスが増える
- 対処:集中力が必要な業務はノイズキャンセリングイヤホンを使用
具体的かつ明確な希望を伝えることで、職場側も対応しやすくなり、お互いにとってより良い環境を作れます。
必要に応じて医師や専門家の意見書を添えるのも有効ですが、職場側にとって大きな圧となるリスクもあります。過度に専門的な説明は避け、分かりやすい言葉で伝えるよう心がけましょう。
職場側の立場も理解し対話する
合理的配慮を求める際は、職場側の立場を理解し、建設的な相談を心がけてください。政府広報にも「負担が過重でない範囲」「必要かつ合理的な対応」と明記されています。
希望する配慮が職場側にとって負担が大きすぎる場合、受け入れが難しいと判断されることもあるでしょう。
- 高額な物資やツールの購入コスト
- 受け入れ部署の人員リソース
- 組織の仕組みや構造の見直し
一方的な希望だけ伝えるのではなく、双方向のコミュニケーションによって「必要かつ合理的な対応」を相談してください。
実現が難しいような希望を押し付けてしまうと、「わがまま」と判断される場合があります。
必要であれば第三者の協力も得る
「自分だけでは説明しきれない」という方は、必要に応じて第三者の協力を得ることも有効です。
現職でのすり合わせであれば支援者によるサポート、転職活動時であれば障害者向け転職エージェントを活用しましょう。
職場側への説明だけでなく、客観的な視点からの代替案なども受けられます。
ご自身と職場側だけでは方針が決まらない場合でも、第三者による調整サポートで解決する可能性が高いです。
過度な「特別扱い」を避けることの大切さ
過度な「特別扱い」は、職場の雰囲気を悪化させる可能性があります。
必要な配慮を受けることと、なんでも許してしまうのは別問題。他の従業員との関係性が崩れたり、職場でのステップアップが難しくなったりするリスクがあります。
- 頻繁な遅刻や早退の黙認
- 理由のない業務の免除
- 不公平な休暇申請の優遇
過度な特別扱いは、他の従業員から見たら不公平感を覚える原因。必要以上の配慮は、かえって私たちのキャリアや職場全体の雰囲気にも悪影響を及ぼすことがあります。
仕事へのモチベ低下にもつながることも!
配慮の伝え方を工夫して線引きをする
配慮はあくまで「必要なサポート」として伝え、適切に周知してもらうことが大切。同じ部署の同僚や上司、他部署でも連携が多い場合は、必要に応じて伝えておく方が無難です。
ご自身にとって必要な配慮のラインが明確でないと、周囲はどう接すればいいか分からない状態になってしまいます。
- 何を任せたらいいのか分からない
- どこまでサポートが必要か判断しづらい
- 必要以上に気を使い過ぎてしまう
自分の働きやすさだけでなく、周囲の納得感を得ることも、職場での信頼関係を築くうえで重要です。
必要な配慮を具体的に伝えることで、周囲も「どのように協力すれば良いか」を理解しやすくなります。
最悪の場合、社内ニート化してしまうケースもある!
「できない」ではなく「してほしい」で考える
合理的配慮を求める際には「できない」と言い切るのではなく、「してほしい」という視点が大切です。職場との建設的な話し合いによって、双方が納得できる解決策を見つけやすくします。
例)長時間の立ち仕事が難しい場合
「立ち仕事はできません」(椅子を用意してほしい)
→「立ち仕事は難しいため、椅子をご用意いただけると助かります。」
対応が全くできない業務でも、代替案を提示することで印象が変わる場合があるでしょう。
例)聴覚障害がある場合
「電話応対はできません」(別の業務に割り振ってほしい)
→「電話対応は難しいため、メールやチャットツールを使った業務を任せていただきたいです。」
前向きな提案は、職場からの正しい理解を得たり、業務の進め方や職場環境を見直すきっかけになったりします。
希望する配慮と職場が負担するコストのバランス
仕事をする上で必要な配慮は、障害や特性によってさまざまです。しかし、配慮は企業にとって、負担なく実現できるわけではありません。
希望する配慮と、職場が負担するコストのバランスを考えることが大切です。
例えば「メモを取るのが難しいため、会議資料を事前に共有してもらえると参加しやすいです」といった配慮を頼む場合。
企業側のコストは「会議資料を事前に共有すること」となり、大きな労力をかけずに達成できます。
一方で、大がかり設備の導入が必要な場合、職場にとって大きな負担となります。
例えば「静かな環境を確保するために、専用の作業部屋を設けてほしい」といった配慮の場合。
社員1人の雇用のために部屋の確保が必要となり、場合によっては事務所全体の配置を見直すことになるでしょう。
特別扱いと勘違いされないためにも、必要な配慮がどのように合理的であるかを丁寧に説明し、職場側の理解を得ることが重要です。
職場から配慮してもらえない場合の対処法
障害者雇用であっても、希望する配慮が十分に得られないことはあります。
職場側の理解やリソースが足りない、私たちが必要以上の配慮を求めているなど、状況によってさまざま。
部署や人事部にかけあっても改善されない場合、外部へ頼るのも一つの手です。
- 自助会や当事者会で他者の事例を知る
- 支援者の介入は「甘え」ではなく理解を得る手段
- 転職活動を通じて視野を広げるのも有効
知見や情報を集めに動くのは大事!
自助会や当事者会で他者の事例を知る
自助会や当事者会とは、同じ障害や課題を抱える人が集まり、経験や情報を共有する場。それぞれの会によって、趣旨や特色が異なります。
- 抱えている困りごとをケアする場
- グループワークで特性と向き合う場
- 当事者だけの安心できる居場所や空間
同じような悩みを抱えている人と話すことで、ご自身のケースを客観視することにもつながります。
情報収集として使ったり、心を落ち着けるために使ったりと、状況にあった会を利用してみましょう。
支援者の介入は「甘え」ではなく理解を得る手段
障害者支援に介入してもらうのも、手段のひとつ。支援者からの意見によって、職場の理解が進む場合があります。
- 各障害向けの支援センター
- 移行支援やなかぽつなどの就労支援
- ハローワークの専門援助部門
職場への介入まではいかなくとも、現状を相談してみるだけでも気付きを得られます。
また支援者は、職場と私たちの橋渡し役を務めることも可能です。
- 面談の場に同席し、双方の意見を調整
- 問題がこじれる前に解決策を話し合う
- 働きやすい職場環境を整える手助け
ご自身の障害が職場にうまく伝わっていない方や、調整が難しいと感じる方は相談してみましょう。
転職活動を通じて視野を広げるのも有効
現職で十分な配慮が得られない場合、転職活動を通じて視野を広げることも有効です。転職活動は、他社の障害者雇用への取り組みを知る良い機会となるでしょう。
- 障害者雇用に積極的な企業のHPや記事を見る
- 転職エージェントや転職サイトで求人を見る
- 実際に履歴書や職務経歴書を作ってみる
希望する配慮が他社では得られるのか?同じ職種で他社の待遇はどう変わるか?といった、現職だけでは得られない情報が手に入ります。
現職でより実現しやすい配慮や、調整方法が見つかるかもしれません。
転職を考えること自体が、現状を改善するきっかけとなる可能性があります。視野を広げ、自分に合った職場環境を探すことは、働きやすい仕事を見つける一つの手段です。
まとめ|合理的配慮とわがままの違いは相互理解
本記事では障害者雇用で働くうえで悩みがちな、配慮とわがままの違いについて紹介しました。
- 合理的配慮をわがままと勘違いされるケース
- わがままと誤解されやすい配慮の事例
- 合理的配慮の勘違いを防ぐ3つの工夫
合理的配慮とわがままのラインは、個々の事情によって異なります。職場側が原因のこともあれば、私たち側が原因となることもあるでしょう。
必要なのは相談と調整。お互いにとって「合理的」と判断できる、いい塩梅のラインを見つけることが重要です。
一人で解決するのが難しいと感じたら、近くの障害者支援に頼ることをオススメします。